事業を行う際に、個人事業主と法人のどちらを選択するかはよくある悩みの一つです。この記事では、個人事業主と法人の違いやメリット、デメリットをさまざまな観点から解説します。記事を読めば、個人事業主と法人の違いがわかり、個人事業主が法人化する場合のメリットやデメリットも理解できます。
個人事業主と法人の違いは、税制や赤字の繰越期間、社会的信用度の高さです。法人化により節税効果が期待できるのは、年間所得が900万円を超える場合と言われています。個人事業主と法人の違いを理解し、最適な形態を選択しましょう。
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個人事業主と法人の主な違い

個人事業主と法人の特徴を以下のとおり解説します。
- 個人事業主とは個人で独立した事業を営む人
- 法人とは法律で人と同じ権利や義務を認められた組織
個人事業主とは個人で独立した事業を営む人
個人事業主とは、個人が自分の名義で事業を行う人のことで、事業に関する責任や収益が全て個人に帰属する働き方です。開業届を税務署に提出することで、個人事業主として扱われます。個人事業主にはフリーランスや自営業者、内職なども含まれます。
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法人とは法律で人と同じ権利や義務を認められた組織
法人とは、法律によって一般の人と同じような権利や義務を持つことが認められた組織のことです。個人事業主が「個人」として事業を行うのに対し、法人は「組織」として独立した存在となります。法人は法律にもとづいて設立され、法務局への登記によって正式に成立します。
法人は株主が出資する形態の株式会社が一般的で、合同会社や一般社団法人、NPO法人も法人の一種です。法人は定款という基本ルールにもとづいて運営され、役員や社員(株主)が存在します。法人税法にもとづいて法人税が課税されるなど、個人事業主とは異なる扱いを受けます。
個人事業主と法人の8つの違い

個人事業主と法人の違いは以下のとおりです。
- 税金の種類と税率
- 経費計上の範囲
- 社会保険の加入義務
- 社会的信用度
- 資金調達方法
- 責任範囲
- 赤字の繰越期間
- 事業にかかる費用・手続き
税金の種類と税率
個人事業主と法人では税金の仕組みが大きく違います。個人事業主は事業収入から経費を差し引いた利益に対して、所得税と住民税がかかります。所得税は収入の増加に伴って税率が高くなる累進課税制度が適用され、税率は5~45%、住民税は一律10%です。事業で得た利益は「事業所得」として確定申告が必要です。
» 国税庁(外部サイト)
法人の場合は法人税や法人住民税、法人事業税がかかります。法人税は一律の税率で、法人の区分や所得により15%または19%、23.2%です。法人は税理士費用などの税務関連費用が高く、個人事業主に比べて税務調査の対象になりやすいと言われています。
» 国税庁(外部サイト)
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経費計上の範囲

個人事業主と法人では経費に計上できる範囲が違い、法人の方が幅広く経費として認められます。個人事業主は事業に関連する支出は経費として認められますが、生活費と事業費との区別が必要です。事業の使用割合に応じて按分計算を行い、自宅の一部を事務所に使用している場合は、家賃や光熱費の一部が経費になります。
個人事業主は自分の報酬は経費にならず、青色申告の場合は家族従業員への専従者給与が経費として認められます。法人の場合は給与や報酬、退職金はすべて経費になり、自分の給与も役員報酬として経費に計上可能です。
» 青色申告と白色申告の違いを解説!税制面での優遇措置とは?
社会保険の加入義務
個人事業主は従業員が5人以下の場合、社会保険の加入は任意ですが、法人は加入が義務づけられています。個人事業主の場合、自己負担で国民健康保険や国民年金に加入します。従業員が5人以上になると、個人事業主でも社会保険への加入が義務付けられるので注意してください。
法人では健康保険と厚生年金への加入が法律で定められており、役員や従業員全員が社会保険に加入します。保険料は事業主と従業員で折半しますが、会社負担分は経費として計上できます。扶養の範囲内であれば、家族の加入も可能です。
社会的信用度

一般的に法人の方が個人事業主よりも社会的信用度が高いとされています。法人は組織としての実態があり、法的に認められた存在だからです。法人であることにより信頼性が増し、大口の取引や契約、銀行融資や取引先との交渉を受けやすくなります。
個人事業主でも実績や信頼性の積み重ねにより信用を得られますが、事業規模を小さく見られがちです。取引において個人事業主は、法人に比べて不利になる場合があります。
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資金調達方法
個人事業主は資金調達方法が限られますが、法人は多くの手段を活用可能な点が違います。個人事業主の資金調達は、個人向けローンや事業者ローンが中心で、銀行融資や事業資金の借入は難しい傾向です。創業融資や小規模事業者向けの特別な融資制度を活用する方法もあります。
法人の場合は、銀行からの融資以外に以下の方法による資金調達が可能です。
- 投資家からの出資
- 株式発行
- 社債発行
- ベンチャーキャピタル投資
- 公的融資や助成金
大きな資金が必要な事業計画がある場合は、法人の方が資金調達面で有利です。
責任範囲

個人事業主は事業の負債や損失に対して個人の財産も含めた無限責任を負いますが、法人は有限責任である点が違います。事業でトラブルや債務が生じた場合、個人の全財産で対応しなければなりません。事業の債務に対して生涯責任を負う可能性もあります。
法人の場合は有限責任です。出資者(株主)は出資した金額の範囲内でのみ責任を負うので、事業が破綻しても原則として経営者個人の財産は保護されます。ただし、法人でも経営者が金融機関などの借入に対して連帯保証人になっている場合は例外です。
赤字の繰越期間
赤字の繰越期間は個人事業主よりも法人が長く設定されている点が違います。個人事業主は、青色申告を行っている場合にのみ3年間の赤字の繰越期間があります。法人は赤字繰越期間が10年間あるので、長期的な事業計画が立てやすく、事業立ち上げ時の損失も活用可能です。
事業にかかる費用・手続き
事業にかかる費用や手続きは、個人事業主が法人よりも少なく済みます。個人事業主は、税務署に開業届を提出することで開業手続きが完了し、費用はかかりません。確定申告が必要なものの自分でも作成が可能で、青色申告を選択すれば最大で65万円の特別控除が受けられます。
法人を設立する場合は法務局での法人登記が必要で、約10~24万円の費用がかかります。法人は複式簿記による厳格な会計処理が必要です。法人税申告書や決算書なども求められるため税理士に依頼するケースが多く、毎年の書類作成費用も発生します。
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個人事業主と法人のメリットの違い

個人事業主と法人のメリットは以下のとおりです。
個人事業主のメリット
個人事業主の大きなメリットは、開業手続きが簡単な点です。開業届を税務署に提出すれば、個人事業主として事業を始められます。他のメリットは以下のとおりです。
- 経営の自由度の高さ
- 経理や決算の簡便さ
- 青色申告特別控除
個人事業主は個人で事業を行うため、自分の意思決定で進められ、自分のペースで仕事ができます。ライフスタイルに合わせた働き方が可能で、副業でも小規模に始められます。個人事業主は収入から経費を引いた利益をそのまま自分の所得として受け取れるため、資金をわかりやすく管理可能です。
従業員が5人以下の個人事業主には、社会保険の加入義務がありません。費用削減になりますが、将来の年金や保険給付に影響する可能性もあるので注意しましょう。
法人のメリット
法人のメリットは、社会的信用度が高い点です。法人として契約や取引を行うことで信頼度が高まり、ビジネスチャンスを広げられます。他のメリットは以下のとおりです。
- 節税効果が高い
- 資金調達を受けやすい
- 有限責任である
- 事業の継続性が高い
- 赤字の繰越期間が長い
法人では複数人での共同運営も可能になるため、事業規模の拡大や長期的な運営を目指す場合に適しています。
個人事業主と法人のデメリットの違い

個人事業主と法人には以下のようなデメリットがあります。
個人事業主のデメリット
個人事業主の大きなデメリットは、事業の債務に対して無限責任を負うことです。事業が失敗した場合、個人の財産まで差し押さえられる可能性があります。税制面では所得税が累進課税であるため、所得の増加に伴って税負担が大きくなります。赤字の繰越期間は3年間で、法人よりも短いのが特徴です。
取引先によっては契約対象が法人のみの場合もあるため、大企業との取引の場合に難渋する可能性があります。
法人のデメリット
法人は、手続きの複雑さや費用面での負担が大きい点が特徴です。事業規模が小さい場合や収益が安定していない段階では、負担の方が大きくなる場合があります。法人の場合は以下のような負担があります。
- 設立時の初期費用
- 年間維持費
- 社会保険料の負担
- 最低法人住民税
- 税理士報酬
法人は決算公告の義務があるため、決算書作成費用も必要です。法人は経理処理が複雑になるため税理士に依頼する場合が多く、報酬として年間20~30万程度が相場です。赤字の場合でも最低7万円の法人住民税が課税されます。
個人事業主が法人化するメリット・デメリット

個人事業主が法人化するメリットとデメリットは以下のとおりです。
法人化するメリット
個人事業主が法人化する最大のメリットは節税効果が得られる点です。個人事業主は最高で45%の所得税がかかりますが、法人の場合は15%または23.2%の法人税が基本です。年間所得が900万円を超える場合は、法人化による節税効果が期待できます。
経費面でも個人事業主に比べて広い範囲で経費計上が可能です。自分の給与を役員報酬として経費に計上でき、福利厚生費を幅広く認められ、接待交際費も一定の範囲で経費になります。
社会的な信用度も法人化により向上し、取引先や金融機関からの評価の高まりは資金調達にも効果的です。他のメリットは以下のとおりです。
- 長期的な経営計画を立てやすい
- 赤字の繰越期間が3年から最大10年間になります。
- 優秀な人材確保につながる
- 求職者は個人事業主よりも法人に就職する傾向があります。
- 個人資産と会社資産が明確に分離される
- 法人化すると無限責任から有限責任になります。
将来的な事業拡大や株式上場を視野に入れている場合は、法人化は必須条件です。
法人化するデメリット
個人事業主が法人化する最大のデメリットは、事務負担やかかる費用が大幅に増加する点です。個人事業主は無料で始められますが、法人の設立時には約10~24万円の設立費用が必要です。税務申告や帳簿作成などの事務作業が複雑になるため、維持費用も多くかかります。
法人は経営の自由度も低下します。個人事業主のときは自分の判断だけで決められたことも、株式会社の場合は株主や取締役会の承認が必要です。事業規模が小さい場合は、事務負担やかかる費用に見合うだけの節税効果が得られないこともあります。売上や利益の状況を考慮して法人化を判断しましょう。
個人事業主と法人の違いに関するよくある質問

個人事業主と法人の違いに関するよくある質問は以下のとおりです。
個人事業主が法人になるベストなタイミングは?
個人事業主から法人化を検討するタイミングは、年間所得が500〜800万円の時点が目安と言われています。節税効果を重視する場合は、法人化による節税メリットが大きくなる900万円以上が適切です。所得以外の面では、以下の状況が当てはまる場合に法人化を検討しましょう。
- 従業員を5人以上雇用予定
- 大型の資金調達が必要
- 事業拡大計画
- 個人資産と事業資産の分離
- 事業承継の検討
- 取引先からの要請
- 社会的信用度の向上
法人化はメリットが多いですが、個人事業主に比べて手続きが複雑になり、維持費用が増えます。法人化は、安定した収益の継続が見込める状況での移行が理想的です。法人は赤字の繰越期間が10年あるので、事業規模や将来計画に合わせて最適なタイミングを見極めましょう。
個人事業主のままで居続けるメリットは?
個人事業主は法人と違い自由度や意思決定度が高く、自分のペースで働けます。税務申告や帳簿作成などの事務手続きが少ない点もメリットです。事業の規模が小さく、個人で対応できる範囲であれば個人事業主として事業を継続するのがおすすめです。
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まとめ

個人事業主と法人には、税制や経費計上の範囲、社会的信用度などのさまざまな違いがあります。個人事業主は開業手続きが簡単で初期費用も抑えられますが、無限責任を負い社会的信用面では制約があります。法人は社会的信用が高く、節税効果が得られますが、設立・維持費用がかかり、手続きも複雑です。
個人事業主が法人化するメリットは以下のとおりです。
- 節税効果
- 経費計上の範囲の拡大
- 社会的信用度の向上
- 赤字の繰越期間の延長
- 有限責任
年間所得が900万円を超える場合や事業の拡大を目指すときに、個人事業主が法人化を検討する場合が多く見られます。法人化にはメリットもありますが、設立・維持に費用がかかり、手続きが複雑になるなどのデメリットもあります。
法人化の判断は専門知識が必要です。個人事業主と法人の違いを理解し、税理士や中小企業診断士などに相談しながら進めるのがおすすめです。
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